新生児聴覚スクリーニング検査について

Q1.新生児聴覚スクリーニング検査とはどんな検査ですか?

 この検査を受けられる前にお聞きになってたと思いますが、もういちど、検査についてお話ししておきましょう。
 この検査は、赤ちやんが生後2日頃~退院までに行う検査で、眠っている赤ちやんに35dB(デシベル)とか40dBのささやき声程度の音を聞かせ、その反応を調べます。検査にかかる時間は数分から10分程度で、結果をコンピューターが判断して、「パス(=反応あり。今のところ聞こえにくさはない)」または「リファー(=反応なしまたは反応不明で、もう一度詳しい検査が必要)」(要再検査)で表示します。
 今は大きく分けて2種類の検査機器、自動ABR(自動聴性脳幹反応)と自動OAE(単にOAEとも言う。耳音響放射)が使われています。
 自動ABRで検査してリファーとなった場合、耳鼻科に行って診察・精密検査を受けることになりますが、自動OAEで検査してリファーとなった場合は、耳鼻科での診察・精密検査の前に自動ABRでもう一度検査をすることもあります。それは、自動OAEでの検査が、機器の性質上、耳あかや羊水の影響で自動ABRに比べてリファーが出やすい傾向にあるためです。そしてこの自動ABRでもやはりリファーとなった場合は、耳鼻科での診察・精密検査を受けることになります。

*自動ABR(自動聴性脳幹反応)
赤ちゃんにヘッドホンのようなイヤーカプラから音を聞かせ、その反応を脳波で調べるタイプの検査機器です。最初に35dBの音で検査をして、反応が得られなければ再度35dB又は40dB・70dBでの再検査を行い、なおかつ反応が得られない場合には耳鼻科での精密検査を受けることになります。(画像提供 アトムメディカル)
*自動OAE(耳音響放射)
赤ちゃんにイヤホンから小さな音を聞かせ、耳の中から反射してくる音を測定するタイプの機器です。この検査で反応があればほぼ40dBの音が聞こえていることになります。DPOAE(歪成分耳音響放射)とTEOAE(誘発耳音響放射)の二つのタイプがあります。(画像提供 持田シーメンスメディカル)
*MAAS
自動ABRとOAEの機能をもつ機器です。(画像提供 日本光電)
*ASSR(聴性定常誘発反応)
再検査などに用いられ、周波数ごとの聴力を測定します。(画像提供 リオン株式会社)

Q2.なぜ、新生児期にこのような検査をするのですか?

 まず、聴覚障害には、先天性(生まれつき)のものだけではなく、進行性や後発性のものがあることを知っておいてください。例えばおたふくかぜや髄膜炎などが原因で、新生児期には聞こえていても、のちに聞こえなくなるということもあります。ですから、新生児期のスクリーニング検査でのパスは、「今のところ聞こえにくさはない」という意味であり、「これからもずっと聴覚障害はない」という意味ではありません。
 それに対して、リファー(要再検査・要精密検査)というのは、「もう一度検査が必要」とか「詳しい検査が必要」という意味で、まだ聴覚障害と決まったわけではなく、「今のところ、35dBという小さな音や70dBという少し大きめの音にあなたの赤ちやんは反応していませんよ」という意味なのです。また新生児期には音への反応が弱く、聞こえていないかもしれないと思われるお子さんでも、何ヶ月もたって成長してから反応がはっきりしてくる場合もあります。早産や低体重で生まれたお子さんや発達障害(ダウン症など)を伴っていたりするとこうしたことが生じることもあります。

 いずれにしろ、新生児聴覚スクリーニングとは、その時点での赤ちゃんの聞こえを簡単にふるいわける(=スクリーニングする)だけのものですから、何らかのケアが必要な聴覚障害のある赤ちやんかどうかは、そのあと、音への反応が確かになってくる生後3~4ケ月頃でのABRやその他の聴力検査をするまでは、正確にはわからないのです。
 そうすると、きっとこう思われるでしょう。「3~4ケ月くらいまで正確にわからないのだったら、そのときに調べればよいのではないか。なにも新生児期に検査する必要はないのではないか?」
 確かにそのとおりです。本当は、3~4ケ月頃に最初に検査をすればよいのですが、ご存知のように、3~4ケ月頃の赤ちやんは目覚めている時間が長くなり、手足を活発に動かすことも多くなるために、なかなかこのような検査ができないのです。また、聞こえの状態を調べるために改めて病院に行って検査を受けるのも大変なことです。そこで開発されたのが、赤ちやんが入院中で、自然に眠っている新生児期にできる検査でした。

 では、聴覚障害を早くに発見するのは何のためなのでしょうか?それは、人間のことばの獲得と発達に関係しています。
 聞こえる人にとっては音声言語(日本人であれば音声日本語)が自分のことばですが、聞こえない人の中には手話言語を自分のことばとしている人たちもいます。でも、どのような言語であるかを問わず、一般的には(ということは個人差があるのですが)、「バババ…」とか「ダダダ‥」といった喃語(規準喃語)は0歳後半から出始め、(声ではなく手が動く手話喃語というのもあります)、片言のことばが出るのは1歳以降、「○○ちゃん、おはしを持ってきて」などのことばを理解し、「ママ、イコウ」などの2語文を話すようになるのは1歳半くらいからでしょう。ことばを獲得する道すじはどのような言語でも基本的には共通しており、言語獲得のための適切な時期(適期)があるのです。しかし、これまでは、聴覚障害の発見が3歳とか4歳というように遅くなり、そのために年齢に応じたことばの獲得を逸してきた子どもたちがいました。そのような子どもたちをできる限りなくしたい、というのが早期発見の本来の目的なのです。
 ただ、そのために、リファーを告げられたお母さんや家族の方に必要以上に不安や心配を与えることになってしまったのも事実です。聴覚障害があるかないかわからないのに、リファーと言われたおかげで「聞こえていなかったらどうしよう?」「聞こえていなかったらどのように育っていくのだろう?」と先々のことが心配になる方は少なくありません。長い妊娠期間を終え、やっと待望の赤ちやんを胸に抱いたばかりの時期、我が家に初めて赤ちやんを迎え入れ、これから新しい家族として一歩を踏み出すスタートのときに、大きな不安が目の前にぶら下がっていることは、本当に辛いことだと思います。
 では、きちんとした診断がつくまでにまだ時間がかかるとしたらいったいこの時期どうすればよいのでしょうか。お母さんにできることはなんなのでしょうか?そのことについては、この本の「子育てについて」をぜひご覧ください。聞こえていてもいなくても、子育ての基本は同じであることが理解していただけるでしょう。
 そして、お母さんの気持ちが安定していられるようにまわりの家族の方もさまざまな手助けをしてあげてください。とくにお父さんは、ぜひしっかりとお母さんを支えてあげてください。赤ちゃんをつれてお母さん一人で病院に行くことはとても大変なことです。一緒に通院したり、早めに帰って様子を聞いたり、それぞれのご家庭でできる限りの協力をしてあげてください。
 また住んでおられる地域の保健所の保健師さんなどからも子育てについて可能なかぎりサポートを受けられるとよいと思いますので、ぜひ保健所に連絡をとってみてください。そうした周囲のサポートがなかなか受けられないときは、巻末にあげた機関に相談してみてください。

Q3.精密検査はどこで受ければよいのですか?
   また、どんな検査をするのですか?

 出産した産科や小児科でリファーとなり、そのあとに行う検査は、耳鼻科でのABR.(聴性脳幹反応)という検査です(自動ABRとは異なる精密検査です)。そこでは、睡眠剤を使って赤ちやんを眠らせて脳波の反応を調べます。産婦人科で行う検査よりも大がかりで、専門の検査技師や検査結果をきちんと診断できる耳鼻科医も必要です。その検査で反応が出てパスとなることもありますし、反応が出ないで、さらに間隔をおいて再検査となることもあります。しかし、聴覚障害があるかどうかの判断は、からだが成長して首がすわり、さまざまな音刺激に赤ちゃんなりに反応が出てくる生後3~4ケ月頃にならないと、なかなか正確な診断ができないことが多いのです。また、ABRで反応が出なくて、1歳くらいでやっと反応が出てくる発達のゆっくりなお子さんもときにはいます。

 では、精密検査機関(耳鼻科)では、どのような検査が行われるのでしょうか。一つは、今話したようなABR(聴性脳幹反応)という機器による検査です。睡眠剤を用いますので、だいたい生後3~4ケ月に行われることが多いようですが、予想される聴力の程度がどのくらいかとか、両耳か片耳かなどの身体的な条件によって検査時期がこの時期より早かったり遅かったりすることもあります。
 二つ目は、月齢相当の聴性行動反応検査(BOA)です。れは、診察室や検査室で行われる行動観察で、赤ちやんの背後から楽器やスピーカーの検査音などを聞かせ、目を動かす、ビクッとするなどの反応(聴性反応)を手がかりに聴力を測ります。
 三つ目は、家庭での音への反応についての問診です。『聴覚言語発達リスト』(20・21ページ))などでふだんの様子を観察して記録しておかれると、診断の際の資料となるでしょう。
 お子さんの聴力の状態は、今述べたような検査や観察から耳鼻科医によって総合的に診断されることになりますが、もしお近くに小児難聴を専門とする耳鼻科医のいる精密検査機関があるのでしたら、ぜひそちらを紹介していただくとよいでしょう。
 詳細はスクリーニング検査を受けられた病院にお聞きになるのがいちばんだと思いますが、もしそれでもうまく情報が得られない場合は、巻末にあげた機関に問い合わせてみてください。親身になって相談に乗ってくれるでしょう。

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