設立趣旨書

 この活動は、主として聴覚障害および聴覚障害に起因するさまざまな状態にある子供たちの教育や福祉に寄与しようとするものである。
 人間の聴覚は、母親の声を胎内で聞く頃から発達していると言われている。従って、子供に、聴覚の障害がある場合には、早期発見、早期支援が殊に重要である。そのために、近年では、生後数日の産院にいる間での聴覚検査(新生児聴覚スクリーニング)を実施する機関が増え、早期発見につながっている。同時に、聴覚障害児の90%強が聞こえる家庭に生まれるために、要精密検査または聴覚障害と宣告された新生児の家族は大きな不安に遭遇する。しかし、それに対する育児や言語発達に適切な支援を受けることができない状態で退院し、手探りで育児に当たっているのが実情である。
 コミュニケーションと思考の道具である言語は、その言語の属する言語環境の中で、3歳時期をピークに最も望ましい発達を遂げる。聴覚障害児が本来的に習得しやすい言語は手話であるが、実際に生活する上では、日本語、特に読んで理解し考えたことや意思を表出する書くという手段の獲得は必須である。

 そこで、まずは、聴覚に障害のあるわが子に初めて出会う両親が、発見後できるだけ早く、聴覚障害およびその医療や教(療)育について正しく理解でき、安心して楽しみながらいとしく育児ができる状況を作ることが重要である。次に、手話を通して日本語を獲得させるために、早期教育と手話を使う集団での生活時間確保を図り、言語環境を整えることが必要である。しかし、早期に要精密検査または聴覚障害と発見されても、両親や家族が最も必要としている情報や育児の手だてをタイムリーに提供できる機関も機会も無いに等しく、早期発見の成果が十分に生かされているとは言えない。
 聴覚障害教育支援大塚クラブは、医師による診断後、医師との緊密な連携の下に、専門家が速やかに、このような家族等の相談に応じられる支援を、専門家を家庭に派遣する方法なども考慮して実施していきたいと考えている。また、聴覚障害児・者が教育を受ける場所は、ろう学校や難聴通級指導教室に通える通常の学校、通常の高等学校、大学等であるが、聴覚に障害があると、外部の言語情報の受け入れが制限され、学習効果が上がりにくい。学習時の言語情報を要約してパソコンや手書きで提示する人や手話で通訳する人を学習場所に派遣して、授業の支援をしたいと考えている。
 さらに、聴覚障害のある子供が、将来、一般社会で活躍するためには、義務教育はろう学校や難聴通級指導教室などの専門機関で受けても、生活基盤は小さいときから通常の子供たちと同じコミュニティーに置き、仲間として暮らす中で人間関係や個性の伸長を図ることが望ましい。同様に、バリアフリー社会実現のためには、通常の子供たちが、障害のある子供たちとの日常的な関わりの中で、自然に豊かな心に育つことは重要であると思われる。しかし、聴覚障害のある子供たちは、全都で8校(平成18年度からは4校に統合される)設置されているろう学校、もしくは、難聴通級指導教室に通える通常の学校等、いずれにしても自宅から遠距離の学校に就学しているので、近隣の子供たちと帰宅後や休日に共に過ごせる関係を作ることも困難な状況である。
 そこで、聴覚障害教育支援大塚クラブは、ろう学校や近隣の小中学校と連携して、地域の小中学生をも対象とした週日放課後の学童保育やクラブ活動などの体制を整え、土曜日や日曜日、夏季などの長期休業中の活動体制を整え、さまざまな活動を展開したいと考えている。

 前記の課題に対し、これまでは、
 平成13年度から、月2回程度、聴覚障害幼児児童生徒とその兄弟を対象にした土曜日の学校外自主活動を実施。障害児教育の知識や経験を備えた支援協力者を募り、ボランティアとして聴覚障害乳幼児の家庭への訪問支援。
 平成16年度からは、都立大塚ろう学校において、聴覚障害児とその兄弟や家族支援のための都立学校専門研修公開講座を開講し、聴覚障害への理解啓発活動。ろう学校の一部の授業に、パソコンによる要約筆記サービス、などを行ってきた。
 今後、法人として認可された場合には、今までの経験や実績を踏まえて、聴覚障害乳幼児の育児相談や指導のできる専門家を、要請に応じて家庭や学校に派遣する。ろう学校や地域の学校と提携し、授業終了後の週日放課後や学校休業土曜日や日曜日、長期休業中などに学童保育事業や児童生徒の自主活動を支援する事業を実施する。聴覚障害児・者が、音による情報を入手しやすいよう、学校の授業や行事への要約筆記者や手話通訳の派遣をする、などの活動を展開したいと考える。
 そのことにより、聴覚障害者が社会で活躍する場を広げると共に、障害のあるなしにかかわらずコミュニティー仲間としての連帯感が子供時代から養われることによって、自然にバリアフリー社会の実現に一歩踏み出すことが期待できる。また、課外活動で培える種々の雑学はたくましく生きる力の源となり、青少年の健全育成にもつながると考えられる。

◎なぜ、他の任意団体や法人格でなく、特定非営利法人を設立しようと考えたのか

 障害のある子供たちと通常の子供たちとの融合を図りながら、共に暮らす社会を目指した活動はまだまだ少ない。しかし、このような活動は、地味ではあるが、息長く永遠に必要なものである。これらの活動には、常に、関係者相互の信頼関係、社会的信用、一定レベル以上の相談対応能力や指導力、専門技術等が求められる。特定非営利活動団体として活動し、その義務を果たし、権利を行使することは、結局は組織基盤がしっかりとでき、社会的信用が得られる状態を作り出す。公正な組織にバックアップされた社員は、自信を持って活動を展開することができ、それがさらなる公益な活動を生み出すと確信するところである。

平成17年3月24日

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